コラム #023

働き方ハウツー
2022年8月24日

農を通じて自分らしく生きる 長井市で見つけたライフスタイル

働き方改革が謳われ、複業(複業)が勧められていますが、中々、実現できていないのが実態のようです。そんな中、山形県長井市で、農業を生活の軸としながら、やりたいことを実践している二人に出会いました。
5年前に新規就農者になった寺嶋崇さんと、今年から地域おこし協力隊で着任した坂本晃一さん。どんな思いや考えで仕事をしているのか、お聞きしました。


(左:寺嶋さん、真ん中:坂本さん、右:長井市農林課 渋谷さん)

寺嶋さん「以前は会社員をしていたのですが、もっと人と接する仕事をやりたいと思い、旅館業をやれればと退職しました。でも、色んな旅館がある中で、特色を出すためにどんなことが出来るだろうと考え、その地域の『食』を売りにすることは魅力になると考えました。ただ、食といっても肉や魚と色々あります。その中で、自分ができるものは何かとさらに考え、野菜ならば自分で作ることができるだろうと勉強を始めたことが、長井で新規就農する切っ掛けでした。」

坂本さん「私は、寺嶋くんとは高校からの同級生で、彼が農業を始めた頃に、ちょうど旅館業に就いていました。それで、お互い情報交換をしていて、彼の”自分が作った野菜でもてなす旅館”という発想を聞いて、面白いなと思いました。そこでは、宿泊客が農業や田舎暮らしを体験できたりと、ただサービスを提供するだけでないところに、大きな魅力と可能性を感じましたね。加えて、その為に農業を始めたという考え方も、非常に面白いと思いました。」

寺嶋さん「野菜づくりは奥が深いです。今、トマトを生産しているんですけど、私自身、トマトが苦手であまり食べられないんです。だから、味見は周りの人にしてもらっています。そんなことで美味しいトマトが作れるのか?と思われそうですけど、その方が、素直に周りの人の意見を聞けて、自分だけでは気づかなかったことを教えてもらえて、凄く勉強になるんです。」


坂本さん「こういう柔軟な発想は、実に彼らしいなと思いました。自分が美味しいと思って作っても、他の人の口に合わなかったりしますし、それに"みんなが美味しいトマト=市場でも美味しいトマト"と、品質の保証にもなっているわけですから、結果的にみんなに喜ばれるトマトを作っているなと思いました。『自分が味見しないのに、美味しいトマト』と商品にストーリーが生まれていますし、農業って面白いなって思いました。何より、(会社員時代と比べて)寺嶋くんが活き活きして、毎日を楽しんでいるなと思いましたね。」

自分らしい生き方を見つけ始めた友人(寺嶋さん)を見て、坂本さんは自分の人生を考えるようになったそうです。これからどう生きるか、やりたいことは何か、年齢的に挑戦できるのは今じゃないのかと。そこで、一念発起して、長井市に移住を決めたそうです。


坂本さん「寺嶋くんが面白いことを始めた。何か協力できることはないか。楽しそうだし、農業もやってみたいな……と考えていた時に、地域おこし協力隊の制度を知って応募しました。農業はやったことがなかったので、本当に手探り状態です。寺島くんのスケジュールに合わせて起きて、畑に行って、教えてもらったことを黙々とやっているといった具合でしょうか。でも、そのどれもが、とてもクリエイティブな体験です。」

寺嶋さん「坂本くんが来てくれたことで、色々挑戦できているところです。(長井市には)同年代の仲間もいて、お互い情報交換したり、朝市に出品して直接販売をやってみたりと、新しいことが始まっています。それに、旅館の夢も具体的に描けるようになってきて、農業体験の他にも、釣り堀があったり、ドッグランがあったり、生活の地続きにある田舎暮らし体験ができる場にしたいなと、夢が膨らんでいます。イメージとしては、私達や泊まりに来てくれた人達で作り上げていく、小さな村のような場でしょうか。」


坂本さん「私も、お客様をおもてなしする時に、野菜や畑の知識がなければ説得力がありませんから、現場で教わったり、農業に関する本などを借りて勉強しています。これまで触れてこなかった世界なので、どれも新鮮で本当に楽しいです。今は、農業をやりながら農業コーディネーターにも興味が湧いてきているので、そういった部分もこれから勉強を広げていこうかと思っています。」

寺嶋さん「今は、"考える時間"を大切にしています。作業に忙殺されて、1年が終わってしまったの繰り返しでは、夢の旅館は出来ないだろうと思うようになったからで、その為に、就農して最初の2年間は農業に専念していたんだと、今振り返ると思います。その経験があるから、仕事のペース調整、計画作り、作業の分担ができるようになって、考える時間を捻出できています。不思議な事なんですけど、そうすると、もっとこうしたい、あんなことやってみたいって、逆に忙しくなってしまっていますね。」

そう笑いながら語る寺嶋さんも、坂本さんも、本当に充実している毎日を送っていると感じました。
やりたいことを諦めるのではなく、どう両立していくか。二人の挑戦は、まだまだ続きそうです。
(文:池田将友)

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