コラム #030
全員が自己実現できる組織を目指す!(株)マインド内藤寛社長の挑戦
時代の変化に伴い、人が仕事を選ぶ理由も変化してきました。平成29年度の内閣府の仕事を選択する際に重要視する視点という調査結果によると「自分のやりたいことができること」が1位になっています。選ばれる企業になるために、今は給与面以外にも、「やりたいことができる」企業であることが求められています。
(出典:特集 就労等に関する若者の意識|内閣府)
「やりたいことができる」と聞くとやりたい仕事と言い換えられそうですが、「やりたいことができる環境作り」に着手している経営者がいます。(株)マインドの内藤寛さんです。
(株)マインドは県外に主な顧客を抱える雑貨グッズノベルティの企画メーカーです。作りたいという想いを持った顧客の希望を具体化し、それを形にして顧客に提供しています。令和5年で61期目を迎える現在、3代目社長を務めるのが内藤寛さんです。時代とともに文化や生活様式も変わってきました。それに適応しながら経営を続け、今は提案型のOEM営業が主力事業になっています。
内藤寛さんは「全員が自己実現できる組織」を目指し、組織改革に着手しています。その内容についてお聞きしました。
STEP1:既存の組織形態を変え、社員(メンバー)が自ら考え自発的に動ける環境を創る
「きっかけはコロナになったときです。売上が大幅に下がってしまいました。このとき、新しいことやろうと動き出しましたが、私が社長として社員の行動指針を全て決めるやり方に疑問を感じました。このままだと社員は思考停止になり自己成長できないのではないか?社員が継続的な自己成長を実現し、かつやりたいことを実現できる環境を作れるのではないか?こう思いました。そんな時に思いついたのが、今回の組織の大改革です。」
「今の組織では経営者である私が組織の頂点です。この組織では頂点にいる私がすべてを決定し管理職に指示を伝え、管理職がその下の社員が理解できる言葉に置き換えて指示を出し行動を管理します。しかしこれには課題があります。社員は常に管理者から業務指示を得られるため指示待ちになってしまいます。社員は与えられることだけやればよいと考えるため、自己成長しにくいと感じました。」
「そこで管理職を廃止することを考えました。また、社員は従業員や労働者といわれますが、この表現は好ましくありません。なぜ苦労しなければならないのか? なぜ指示されなければならないのか? なのでメンバー(社員)としました。」
「部門の壁を取っ払うと気づくことがあります。実はみんな平等な仲間(メンバー)なんです。今までは部門内だけと思っていた業務も、実はすべてが繋がっていてメンバーの皆が協力してやっているんです。ここでは、私も経営者という役割(意思決定の権利)を担っているメンバーの一人です。」
「さて、管理者を廃止すると意思決定者(社長)とメンバー(社員)がみんな一緒になります。組織に足りないものがあります。それは権利です。今までは、私がこれをしても良いという権利を与えてきましたが、他のメンバーたちにも私と同じ権利を全て与えることにしました。」
「ところで、自由の女神は"statue of liberty"と英訳できますよね。つまり、自由は権利(liberty)なんです。そこで、自己責任のもとの自由(権利)を4つ与えて、よりメンバーが自発的にことを起こせる環境をつくることにしました。」
1.行動の自由
2.選択の自由
3.思考の自由
4.言論の自由
STEP2:社内から自発的にプロジェクトが生まれる環境を創る
「さて、今までは私が全ての意思決定をして引っ張ってきましたが、もうみんな平等ですので、自らが主体的に引っ張っていこうと考える主体的な方がこの組織には必要です。この主体的な方をうむためにどうするか?を考えます。そこで、『自発的にプロジェクトが生まれる環境を作るためのプロジェクト』をやることにしました。」
「このプロジェクトでは、誰かがプロジェクトを引っ張るリーダーとなって社内からメンバーを募り、ビジネスのプランニングシートを作成してもらいます。収益分配もプロジェクトチームで決めることができます。これはメンバー全員の承認を得て完成するプランです。そして、私が最終的な意思決定をします。」
「このやり方の良さは、今まで数字的な成果に働きが反映されづらく、認められにくかった縁の下の力持ちでも、主体的にプロジェクトに関わることで成果報酬対象者になれる点です。そのため、メンバー全員の主体性が高まると考えています。」
STEP3:自由な雇用契約の選択肢を社員(メンバー)に与える
「プロジェクトが自発的に出てくるようになったとき、私から新しいミッションを出す予定です。今の会社のリソースだけではなし得ないビッグプロジェクトです。」
「すると、社内のリソースが足りないので、外部から業務委託者で補完する必要があります。プロジェクト成果の多くは業務委託者の報酬となると思います。業務委託者はこのプロジェクトを回すのに不可欠な存在ですので有利な契約条件で成功報酬額も高額となる場合があります。」
「しかし、既存のメンバーは思います。なぜ、外部の人間が高い報酬を貰えるのか?そうした場合、私は説明します。『あなたは雇用契約の従事です。彼は業務委託であなたには月給という保証があります。』もし、業務委託での契約に魅力を感じるメンバーが出始めたら、私はその方にこのまま雇用契約で会社と関わるか、業務委託契約として会社に関わるかの選択肢を与えます。もし、後者を希望者した場合、元メンバーが新しい業務委託契約者になります。会社の中では周知の方ですので、業務委託者でも会社の環境を使う権利があるため、今まで同様に社内でプロジェクトを自発的に発することができます。ただ雇用形態が違うだけです。これならば、心理的安定性を保ったまま雇用形式を変えることができます。」
STEP4:全員が自己実現できる組織の完成
「これをずっと回していくと、(株)マインドの中には執行部とそれを補完するメンバーがいるだけになります。その周りは自発的な業務委託契約者たちです。この人たちには独自のネットワークが外部にもあります。これで完成するのがヒューマンネットワークです。」
「今は雑貨メーカーですが、この人がこれをやりたいのでインフラ何とかなりませんか?という要望が来た場合、ヒューマンネットワークから補完できます。プロジェクトに専門的な業務委託者を招き契約し、プロジェクトを進行することができます。」
「マインドはこれまで雑貨のメーカーという看板でやってきましたが、この形が実現できれば付加価値創造の会社になります。また、固定費も大幅に圧縮されるため、コロナなどの変化耐性にも強くなるメリットがあると考えています。」
「また、やる気のある若者が現れ、これをやりたい!と声を発すると、環境や資本・リソースを提供してそれを具現化してあげることもできます。」
「これが私が目指す、全員が自己実現できる組織の形です。この組織を私は"ウーダー(OODA)"と呼んでいます。」
「安定を壊すなんて誰もやらないので、どんな弊害があるかわかりませんし、怖さもあります。だからこそ私がやるんです。社員の方には、共感と理解を得られるまで対話をしていきます。そして、その共感が確信に変わっていけばいいなと思っています。」
取材を終えて
内藤さんに目指す組織改革についてお聞きしました。これからも企業が選ばれ続けるためには「やりたいことを実現できる環境」が重要になりそうな今、内藤さんの組織改革はとても理にかなっていると感じました。
いかに時代に合わせて柔軟に変化していけるか?今後もここが地方における企業の大きな課題になりそうです。内藤さんの組織改革を応援したいです。
最後に、内藤さんには事業やる上での軸があるそうです。
「コロナ時に長年取引している会社から『長い間本当にお世話になりました』と電話がありました。廃業です。その時に稲妻が走りました。私は自社の未来しか考えておらず、これまでお世話になった人やこの地域のことを蔑ろにしてきたと感じ、こんな経営者ではいけないと強く思いました。」
「山形県は日本で2番目に100年企業が多い県と言われ、伝統を受け継ぎ、技術や文化を伝承することを重んじる傾向が強いと感じます。しかし、先の企業も変わらないことを選択した上の結果ではないかと考えました。このままではこの地域に産業が無くなるという強い危機感を抱きました。今こそ、未来を創るための変革が必要です。」
「私の子供は今12歳。10年後には22歳です。その時に選ばれる街でありたいと思っています。私が大学生のときには地元に戻るという選択肢はありませんでした。今は時代が違います。豊かな文化や人、産業がしっかり残っていれば、地元も選択肢に入ってくるだろうと思っています。なので、10年後20年後も変わらず、今の当たり前の幸せが当たり前な地域をつくるための事業をやっていきたいと考えています。この街の子供たちが将来大人になった時も、ここがしっかり選ばれる街であり続けられるよう邁進します。」
(文:升屋豊久)