コラム #022
果樹&ピース
~全国からワーカーが集う農園「松栗」で働くということ~
さくらんぼの最盛期が近づいてきた初夏、山形県東根市にある「農業生産法人 株式会社松栗」を訪れました。
2013年に同社を起ち上げた代表取締役の植松真二さんは、“美味しい果物で笑顔を世界中に…”をコンセプトに、剪定や土壌づくり、農薬に頼らないといった果樹栽培を実践。通称「レゲエ農家」とも呼ばれており、レゲエミュージックの精神やファッションをこよなく愛しています。
今回、なぜPARASUKUが松栗さんへ取材に訪れたかというと、全国からワーカーが集う一風変わった農園だという話を聞きつけたから。
いったい、何が多くの働き手を惹きつけるのか。全3回にわたって、(1)植松さんへのインタビュー前編(2)後編、そして(3)実際に働きに来ているワーカーさんへのインタビューをお届けします。
山形から遠く離れた福井県から、さくらんぼの収穫に訪れること6年。交通費のことを考えれば、大きな稼ぎになるわけでもないのに、なぜわざわざ足を運ぶのか。福井県在住の南直行さん(農家)と、松田美智子さん(事務パート)に、訪れる訳と働くことについてお聞きしました。(以下、敬称略)
(左:南さん、右:松田さん)
山形に来るきっかけ
南「先輩から植松さんのことを教えてもらって、山形はさくらんぼの季節はめちゃめちゃ忙しくて人手が足りないらしいから、手伝いに行ってきてくれって言われたんです(笑)。山形って、ずいぶん遠いよなとは思ったんですけど、見聞を広めるために思い切って飛び込んだのがご縁です。」
松田「とは言っても、旅費を用意していたわけでもなかったので、最初は高速代ももったいなくて、下道で何時間もかけて来ましたね(笑)。」
南「ようやく山形に着いた時に、途中の道の駅でさくらんぼを買って食べたんです。これが本場かぁ……って美味しかったですけど、植松さんのところに着いて試食させてもらったら、さっき食べたさくらんぼと全く違っていて、めちゃめちゃ美味しいんですよ。」
松田「もう、ジュースでした。ミネラルがたっぷりっていうか、果汁が、ぶわって口に広がって甘みが全然違うんです。美味しいと思っていたさくらんぼの、さらにもっと先にある美味しさでしたね。」
南「もう、さくらんぼの概念が変わりました。奥深さを痛感したと言うか、(植松さんのさくらんぼが)日本一を受賞した理由も頷けました。」
植松さんのさくらんぼ
松田「一般的なさくらんぼは、軸の部分が細いんですけど、植松さんのものは太く短いんです。さらに良質なものだと、重力に負けないよう軸が90度ぐらい湾曲しているんです。」
南「剪定の方法によるものらしいのですが、実に養分がいくよう、余分な枝を切ったりしているそうなんです。それを一本一本、木の性質が違うわけですから、常に観察して、それぞれに合った剪定をやっているわけです。」
松田「相当な労力だと思います。それこそ、毎日、休む暇がないと思います。神経も張り巡らせているんでしょうね。植松さんは、この収穫時期はほとんど寝れていないそうなんです。それぐらい熱心だから、多くの方に慕われているんだろうなって感じます。」
南「仕事の合間やご飯の時に、植松さんからものづくりの話を聞かせてもらうんですが、本当に、広く、深いんです。言葉は悪いですが『農業馬鹿』という言葉がピッタリなぐらい、徹底的にこだわっているし、ものすごく勉強していると圧倒されますね。」
働きたいを繋げるもの
南「観光地って、1回行くと満足してしまって、2回目って中々ないじゃないですか。きっと、私も、観光でさくらんぼ狩りに来ていたら、それで満足していたと思います。」
松田「私も観光ベタで、名所巡りよりも、現地のスーパーで地元の食や生活文化に触れるのが好きなんです。それに、観光ってお金を払って経験することばかりで、割に合わないこともあるなって思う時が多いんです。それに比べると、ここだと働きながら地元のことを知れて学べることが多いんです。やっぱり、さくらんぼの木は、写真で見るものと全然違いましたから、本物を見ること、体験することは価値があるなって感じています。」
南「経験もそうですけど、人と人の繋がりも嬉しいんです。観光だと、現地の方と知り合うのって難しいですけど、一緒に働くことで自然と顔見知りになれるんですよ。そうすると、"来年もまたねー"って具合に、今年も皆に会いに行きたいなと自然と思えて、それがずっと続いている感じでしょうか。私としては、楽しい時間がずっと(6年間も)続いているんです。」
松田「だからか、ここでは仕事って感じがしないんですよね。働いているけど、それがお金の為だけじゃないというか、自分に還ってくるものがたくさんあって、それが心地いいんです。」
働くことについて
南「植松さんは、農業は自由だってことを体現している人だと思います。自分が社長だからと上下関係を作ることもなく、フラットに接してくれています。でも、だからといって、いい加減にやっていわけでもなく、ちゃんと信念を持って農業をしていることは、行動の一つ一つから感じ取ることができます。」
松田「アルバイトには若い方も来てくれているんですが、そういう植松さんの人間性を知って来ているみたいなんですね。」
南「それと、植松さんの"人間も自然の一部である"という考え方に賛同していて、農業に携わる(自然に触れる)ことって大事だよねって、本当に実感しています。」
松田「私の場合、さくらんぼの収穫シーズンになると上司にお願いして休みをもらっています。職場も理解ある人達で、さくらんぼをお土産に送ってくれるならいいよって(笑)。やっぱり、自然に触れることをすると元気が出るんですよ。ストレスを開放する場所にもなっているというか、気分も考え方もリフレッシュできます。」
南「本当に、農業って"自分らしくいれる仕事"なんです。自然に触れていると、何か満たされてきて内側からキラキラしてくるんですよね。こういった大事なことを山形で教えてもらったから、その恩返しじゃないですけど、毎年、来てしまっているんですかね(笑)。」
○植松さんへのインタビュー前編はこちら
○植松さんへのインタビュー後編はこちら
○株式会社松栗オフィシャルサイトはこちら
(文:池田将友)