ストーリーズ #009
副住職×会社員×ホール運営
清水智昭さん
地域:山形県山形市タイプ:会社員兼個人事業主
山形県山形市の住宅街に、ひっそりとたたずむ「真言宗地蔵寺」。
この寺の副住職である清水智昭さんは、会社員をしながらライブハウスを運営し、さらには楽器販売やYouTube配信なども手掛けているという、まさにパラレルな肩書の持ち主です。
真言宗地蔵寺は、一見すると民家のようですが、真言宗醍醐派の歴史ある寺。清水さんは7代目として、代々続く地蔵寺を受け継ぎました。
「若い頃は抵抗もしましたが、やっぱり俺が継ぐんだろうなと自然に受け入れていたというか。高校を卒業してから一年間、山で修験をして、7代目になりました。修験は20人のうち4人が脱落するという厳しい内容でしたが、やりきったからには覚悟もできましたね。」
過酷な修験から帰ると、父親や祖父と同じように、会社勤めをしながら寺を守る”兼業住職”となるべく就活を始めた清水さん。工業系の高校で学び、ものづくりに興味があったことから、近隣の金属加工会社に就職しました。この仕事は現在まで続けており、製造ラインの部品製造に携わっています。
そんな清水さんが、少年時代から心のよりどころとしてきたのが、バンド活動でした。
「中学3年の時にバンドに誘われて、その時はベースをしていたんです。高校生になって親戚からギターのおさがりをもらって、そこからもうのめり込みましたね。
僕はもともとおとなしい性格で目立たなかったんですけど、高校2年生の時、クラスの誰かが『清水、ギター弾いてみろよ』と言って。ちょっと弾いたら『あいつ、すげえ!』って一気に変わったんですよ。そこから調子に乗りましたね(笑)。僕にとってギターは、戦隊ものでいう武器みたいな感じ。装着すると、自分がちょっとレベルアップしたような錯覚ですかね。」
それから高校を卒業し、副住職となっても、就職しても、結婚し3人の子どもを育てる父親となっても、ギターへの愛は変わることはありませんでした。
そして、とうとう寺の境内にプライベートスタジオを新築するまでに。
「ずっと、気兼ねなく弾けるスタジオが欲しかったんです。2015年に完成したんですが、その10年前くらいから計画していました。完成してみて、友人が『ここでライブできるんじゃない?』って言ったので、じゃあやろうかとなったのがきっかけです。」
趣味の領域をぴょんと軽く飛び越えたような、防音完備の新築スタジオ。
個人で趣味を楽しむために建てたこのスタジオを、ライブハウス「地蔵寺ホール」としてオープンすると、清水さんは、この設備と人脈を活かし、アマチュアライブや趣味の会などを開催。また、著名なドラマーやギタリストを首都圏から招き、大々的なライブイベントも行ってきました。イベントには全国からコアなファンが駆け付けたそうです。
「プロのミュージシャンに来てもらえることになったのは、千葉の従兄弟がプロギタリストとして活動してることからつながったご縁です。僕は全くの素人なので、思い切って情熱をぶつけたら来てもらえることになって。今考えてみると、素人だからこその無茶でしたね。」
「イベントをやってみて、今までライブは『失敗しないように』と緊張しながら発表する場だったのが、お客さんの反応を楽しみながら演奏する場に変わりました。うつむいていたのが、こぶしを上げて、『見てよ!』ってできるくらい。お客さんとセッションをするって、こういうことなんだなと。これはプロのミュージシャンから学びました。それからますます面白くなりましたね。」
地蔵寺ホールでは、近所のお蕎麦屋さんに出前やオードブルを注文して食べながら演奏を聴いたり、「ドラえもんの会」など音楽とは違う視点で好きなことをしたりもするそう。
近所のおじさん、おばさん、子どもたちも足を向ける、この敷居が低い地蔵寺ホールには、こんな遊びゴコロも。
「藤子不二雄アニメが好きなので、ここに『どこでもドア』を作ったんですよ。開くとそこはトイレにつながるんですけどね。その奥はシャワー室で、しずかちゃんがいる設定です。
それから、気付きました? 駐車場の看板の『P』、パーマンバッジなんですよ。」
昨年からは、このコロナ禍でイベント開催が難しくなったこともあり、仲間とともに楽器店「ツインズギターズ」をオープンし、こだわりの楽器やパーツの販売を始めました。また、YouTubeチャンネルも開設し、ギターマニアが喜びそうなコンテンツを配信中です。
「もし、僕がこの地蔵寺ホールを始めないで、他の誰かがやったと話を聞いたら、うらやましくて悔いが残っただろうなと思います。『この地蔵寺ホールで次は何をしよう』と考えるとワクワクするから、それをするための資金を稼ごうと思うと製造の仕事もモチベーションが上がるんです。ホールを始める前と今を比べたら、幸福度は10倍ですよ。」
副住職、会社勤務、ライブハウスのオーナーという、一見すると両立困難な3つのワークスタイル。しかし、上手にバランスをとりながらその3つをこなす清水さんは、驚くほどフラットでユーモアに溢れていました。
生活をするための仕事に、人生を楽しむための仕事が加わった時、その先にある未来が全く違うものになるのかもしれない。清水さんのお話をお聴きして、そんなことを感じました。
(文:海谷美樹)
地蔵寺ホール
山形県山形市大字片谷地2120
TEL:090-9030-4105
・地蔵寺ホール公式サイト
・楽器店「ツインズギターズ」
・YouTube「地蔵寺ホール」
しごとパラメーター
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