ストーリーズ #026

多目的公共施設の運営・管理×バラ生産加工販売

佐藤洋介さん

地域:山形県村山市タイプ:地域プロジェクトマネージャー兼事業経営者

1921年の開校から2016年3月の閉校まで、100年以上にわたり地元の人々に愛され、街ににぎわいをもたらしてきた旧県立楯岡高校。閉校後の数年間、村山市では市民会議やワーキングチームを設置し、地元住民の声を汲み取りながら跡地の利活用を検討してきました。
2020年5月には、跡地が県から市に譲渡。市有財産となったことをきっかけに、改修工事が本格化します。


(旧県立楯岡高校 校章。楯高生は親しみを込めて「わらびマーク」と呼んでいました)

そして、2022年7月。“楯高”は『Link MURAYAMA』として新しく生まれ変わりました。
今回ご紹介する佐藤洋介さんは、このLink MURAYAMA実現の立役者として存分に力を発揮。さらにはオープン後の管理・運営にも携わられています。

地域プロジェクトマネージャーと事業経営者の両輪で

佐藤さんはパラレルワーカーとしてふたつの顔を持っています。ひとつ目は、村山市から任命された「地域プロジェクトマネージャー」としての顔。2022年7月から市の最重点プロジェクトであるLink MURAYAMAの管理・運営と中心市街地活性化に取り組まれています。

Link MURAYAMAとは、気軽に立ち寄って利用できるオープンスペースをはじめ、コワーキングスペースやミーティングブース、広大な屋内外の広場といった公共空間のほか、カフェやフィットネスジムなどの民間事業者が店舗やオフィスを構えてビジネスを展開する、さながら小さな街のような場所。
市の中心市街地に位置しており、JR村山駅からも徒歩7分というロケーションも手伝って連日たくさんの人でにぎわっています。


(利用者でにぎわう1Fオープンスペース)


(予約制の2Fコワーキングスペース)

ふたつ目は、村山市を象徴する花であるバラを用いた事業を展開する「経営者」としての顔。自らバラを栽培してローズオイルやローズウォーターなどを製造・販売する6次産業化ビジネスを2021年7月に起業しました。

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「市が外部専門人材を任用する地域プロジェクトマネージャーの任期は基本的に3年間。その後は個人の意志だけで決めることはできません。もちろん、プロマネの任を解かれたとしてもLink MURAYAMAとの関わりは何らかのカタチで継続していきたいと思っていますが。」

「そこで、かねてから興味があったバラ生産加工販売の仕事を始めました。プロマネに就任する1年前のことです。前職の退職金を注ぎ込んで、収穫したバラの花からローズオイルやローズウォーターを抽出するための水蒸気蒸留器を購入したんですよ。」

政策推進課長として高校跡地の利活用事業に手腕を振るう

岩手県奥州市出身の佐藤さんは、東北大学農学部に進み大学院では栽培学・土壌学を研究。2010年からは農林水産省職員として国家行政に関わる仕事に従事します。その後2017年には山形県村山市に出向。政策推進課の課長として3年間勤務することに。

佐藤さんが村山市に着任後、真っ先に取り組んだのが「閉校した楯岡高校の跡地をどうするか」という仕事でした。


(アイデアを紡ぎ出すために欠かせない佐藤さん愛用の仕事道具)

「まったくのゼロからの検討で、最初はどうしたらいいのかわかりませんでした。当初はそのまま学校として活用する案もあり、約1,800もの学校法人に問い合せしたのですが反応は薄くて。そこで、各部屋に入居してくれる事業者さんを募集するため精力的に営業活動をしながら、地元の方々や施設に興味を持っていただいた事業者の皆さんと一緒になってアイデアを練りつつ施設利活用の青写真を描いていったのです。」

具体的な計画が固まり“いよいよ改修工事に着手できそうだ”というタイミングで3年の任期が終了。後ろ髪を引かれる思いで佐藤さんは東京に戻ります。

「法整備や国家予算などにも関わることができるスケールの大きな農水省の仕事は確かに魅力的でした。でも、道半ばで手放さざるを得なかった高校跡地の利活用事業をはじめ、地域の活性化に熱い想いを持っている地元の農家さんや事業者の方々との関係、さらに市の象徴であるバラの花を使った地域活性化の取り組みなど、村山市に残してきたものは自分にとってかけがえのない大切な存在でしたね。」


(大切に育み続けた夢の数々をもう一度この手で!)

2年後の2021年6月末、佐藤さんは11年間勤務した農林水産省を退職。東京から村山市に移住し、今度は地域おこし協力隊のメンバーとして再び高校跡地の利活用事業に加わります

その後は前述の通り、2022年7月から地域プロジェクトマネージャーとしてLink MURAYAMAの管理・運営と中心市街地活性化に尽力されています。

バラの女王と称される香り高いダマスクローズを蒸留


(佐藤さんが手塩にかけて育てたダマスクローズ)

Link MURAYAMAの管理・運営と並行して取り組まれているのがバラ生産加工販売の仕事。『山形薔薇蒸留所』という屋号で、最上川のほとり近くに栽培農地と蒸留所を構えて活動を行っています。
佐藤さんが栽培するのはダマスクローズという品種。野生種に近く、6月中下旬の20日間程度しか開花しないのだとか。その希少さゆえ香り高く「バラの女王」と呼ばれているそうです。


(バラ畑の脇に佇む蒸留所)


(ブルガリア製蒸留器を使ってローズオイルやローズウォーターを抽出)

佐藤さんは収穫したダマスクローズの花と水のみを原料に、水蒸気蒸留法という方法でアロマ雑貨をはじめ、香水や化粧品に使用するローズオイルやローズウォーターを抽出。商品化を目指しています。

「ダマスクローズの花に水を加え釜で加熱すると、香り成分を含む水蒸気が発生します。それを冷やして液体に戻すと、ローズオイルとローズウォーターを抽出することができるんですよ。このダマスクローズの主要産地として有名なのがブルガリア共和国。しかも、国を挙げてバラの香りを活用した産業に取り組んでいます。」


(蒸留器に摘み取ったダマスクローズと水をセットした状態)


(約10キロのバラから、わずか1グラムしか抽出できない貴重なローズオイル)

村山市には、およそ750品種、約2万株のバラが咲き乱れる観光名所の東沢バラ公園があり、市を象徴するのもバラの花。バラを国花とするブルガリアと共通点があることから、2016年に村山市はブルガリアのホストタウンとして登録されました。

「私が政策推進課長だった2017年以降、のちに東京五輪に出場して金メダルに輝くブルガリア新体操ナショナルチームの事前合宿『ROSE CAMP』が度々実施されました。選手をサポートする役割であるホストタウンとしては大成功だったと思いますが、東京五輪が終わったあとに村山市に何が残るのだろうか、とも思っていたんです。そこで、五輪後も残る『産業』として、バラを積極的に活用し、地域をもっと盛り上げられたらいいなと。

さっそく佐藤さんは地元農家にダマスクローズを紹介し、村山市内での栽培実証試験をするなど、地道な“布教”活動を展開。これが功を奏して、その時に植えた苗が順調に育ち、現在では化粧品や食品を生産する事業者も。


(ブルガリアから輸入したダマスクローズの苗)

政策推進課長時代に少しずつ培ってきたバラ産業の集積を追い風に、佐藤さんは来年の本格的な収穫を心待ちにしながら、さらなる一歩を踏み出そうとしています。

どちらも思い入れたっぷりの仕事。あえて苦労を楽しむ

Link MURAYAMAの運営・管理とバラ生産加工販売。どちらも主業だと笑顔で語る佐藤さんに、性格が異なるふたつの仕事を並行して行うメリットについて伺いました。

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「Link MURAYAMAではデスクワークがメインなので、野外で農作業をするとリフレッシュできていいですね。また仮に農作業だけの場合、会うのは農業関係者ばかりになりそうですが、Link MURAYAMAはいろいろな人が利用して交流する場所なので、毎日が新しい出会いに満ちています。それがパラレル的な働き方をするいちばんのメリットです。業種を問わず、さまざまな人脈が文字通り“Link”していくイメージですね。」


ふたつの仕事をパラレルするための時間的なやりくりは、どのように工夫されているのでしょうか?

「それこそ時間を縫うように(笑)。Link MURAYAMAは早番と遅番のシフト制を導入しています。そこで春から秋にかけての栽培シーズンは、シフトの空いた時間を活用して農作業。例えば、遅番が14時からなので、夜明けから昼過ぎまで畑で作業をして、温泉で汗を流してから出勤するという感じです。」


やっぱり「大変だな」と感じることもあるのでは?

「どちらも思い入れたっぷりの仕事なので『大変だな』『ストレスを感じるな』ということはあまりないですね。しいて挙げれば、畑が夏草でぼうぼうな時に草刈作業をしてヘトヘトな状態でLink MURAYAMAに出勤するのは大変かな(笑)。でも、歯を食いしばって仕事をするのも時に必要なことだと思うので、苦労自体を楽しむようにしていますよ。」

Link MURAYAMAで、すべてがつながる。そんな未来に想いを馳せて


最後に、今後の展望について語っていただきました。

「まずは、Link MURAYAMAを中心市街地活性化の拠点にしていくことがいちばんの目標。JR村山駅から直線で徒歩7分という好立地ですので、Link MURAYAMAに来た人が商店街に立ち寄る、商店街に来た人がLink MURAYAMAで思い思いの時を過ごす。そうした光景が当たり前になるよう、エリア全体として活性化するように取り組んでいきたいと考えています。」

「それから、バラを活用した産業のさらなる集積。村山市がバラの産地として国内外に広く周知できるよう、産業化をより進めていきたいと思っています。そこで、今自分が取り組んでいる事業を軌道に乗せつつ、同じ志を持った仲間をどんどん増やしていくことに力を注いでいきます。その出会いの場として、Link MURAYAMAが上手く機能しているのも当事者として非常にうれしく感じますね。」

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これからもLink MURAYAMAで“つながり”『にぎわい』と『なりわい』を創造していく佐藤さん。

バラが咲き誇る季節に村山駅で下車した瞬間、甘く華やかな香りに包まれ、その芳香と美しい風景がLink MURAYAMAを経て、東沢バラ公園まで続いている--。

そんな日が訪れるのも、そう遠くない未来なのかもしれません。
(文:谷仲広行)

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