ストーリーズ #017

建築×カフェ経営×その他、まちのための活動

追沼翼さん

地域:山形県山形市ほかタイプ:自主事業内複業

「まちのための建築をつくる」をビジョンに掲げ、建築の企画・設計、まちづくりなどを行う株式会社オブザボックス代表の追沼翼さん。自ら企画・設計を手がけたカフェの経営と、他店舗のコンサルティング・マーケティングにも携わるなど、商店街の内側からも「まち」にアプローチしています。

人呼んで、「アーバン百姓」——。

都市を意味する「アーバン」と、たくさんの仕事をこなす「百姓」をかけ合わせたその愛称は、「まち」を軸にさまざまな仕事をこなす追沼さんのユニークなワークスタイルを表しています。

追沼さんが「まち」を軸とした活動を始めたのは、大学在学中に手がけた「郁文堂書店再生プロジェクト」がきっかけでした。


「もともとは、『空き物件のリノベーションを考える』という大学の課題用の架空プロジェクトだったんですが、実現できたら面白いなと。クラウドファンディングで資金を集め、個人的な活動として実行したのが始まりでした。

シャッター商店街化が進む山形市七日町にある老舗書店「郁文堂書店」を、新たな書店として生まれ変わらせるというそのプロジェクトは大成功。その一方で、大きな課題が残ったといいます。

「たしかに、書店の利用者さんはじめ、建物の『ナカ』にいる方には喜ばれました。けれど、その『ソト』、つまり『まち』にまで影響を与えることはできなかったんです。

もっと、できることがあるはず……。そんな思いを糧に、「まちのための建築」を模索。「山形ヤタイ」「シネマ通りマルシェ」など独自のプロジェクトを展開していきました。


(山形ヤタイ)


(シネマ通りマルシェ)

やがて、自主的なプロジェクトだけでなく、県内外のいろいろなところから相談を受けたり、協同プロジェクトに誘われたりすることも増えていきました。

その一つが、大学の先輩から誘われ、複数人で協同して取り組んだ「すずらん通りリノベーションプロジェクト」でした。このプロジェクトは、山形駅近くの「すずらん通り」に建つビルのオーナーからの依頼により始まったものです。

「オーナーは、『まちのために、この空間をどう活用すればいいか』と悩んでいらっしゃいました。すずらん通りは、飲み屋さんが多く、夜に人が集まる繁華街。そこで、僕たちは住居やオフィス、飲食店が混在するビルへとリノベーションし、そこにカフェを開業することで、このまちに朝・昼の新たなライフスタイルをつくっていくことを提案したのです。」


2019年、「Day & Coffee」開業。追沼さんはこの店の経営者として、管理や運営、マーケティングなどに携わります。また、自らの集客経験をもとに、他社と提携してMEO(マップエンジン最適化)対策サービスを提供するなど、他店舗のマーケティング・コンサルティングに活かす取り組みも進めています。

こうして確立してきた、パラレルな働き方。そこには、多くのメリットがあるといいます。

「マルシェなどの公共空間活用やカフェ経営など、別の仕事で身につけた知識が企画・設計の仕事に活かされています。例えば、臨時営業許可や道路占用許可の取り方、保健所との協議などに詳しいので、イベント出店するクライアントに幅広いアドバイスができるんです。

「あと、実は収入面でも救われています。建築の仕事はすべてが完成してからお金がもらえる仕組みなので、進行中の収入は不安定なんです。一方、カフェでは毎日売上が発生しますから、それがある意味で精神安定剤になっています。


週2日は店舗に立ち、合間にほかの業務も同時進行。それ以外の日は、午前中に企画・設計の打ち合わせを複数こなし、午後は寝る直前まで作業する日々。どんなに多忙でも、「できることはすぐやる」「タスク整理をちゃんとする」などの工夫をしながら、アイデアを生み出し続けます。

こうした行動や才能のルーツは、幼少期の家庭環境にあるようで——。

「幼い頃、祖父から『人の役に立つことをしろ』『疑問を持ったらすぐ調べろ』と言われて育ちました。今でも、それらが行動の指針になっています。また、母はゲームは買ってくれないのに、レゴなどものづくり系のおもちゃは快く買ってくれる人でした。今思えば、それで創造性が養われたのかもしれません。

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意外にも「将来の夢は特にない」という追沼さん。2021年8月に取材させていただきましたが、実はつい数年前まで、「まち」のための仕事をするなんて考えたこともなかったそう。建築の世界に入ったのも、大学受験で志望大学に落ちたからなんだとか。

「もともと、偶然起こることに魅力を感じるんです。だから、クライアントから思いもよらぬ相談を受けるとワクワクします(笑)。これからも、『まち』に求められることに柔軟に応え、当事者に喜んでもらいながら、『まち』の風景を変えていきたいですね。」

今後も、時代の変化にパラレルな働き方で応じていくという追沼さん。「これからパラレルワークがしてみたい」という方へのアドバイスをうかがうと、心がけるべきことを2つ教えてくださいました。

「1つめは、『買おうかどうか悩んでいるものは、さっさと買う』。早く買って手に馴染ませておけば、本当に必要なときにすぐ使えるじゃないですか。悩んでいる時間がもったいないです。仕事も、同じことだと思います。」

「2つめは、『決めた場所(ルール)からジャンプする』。僕は縦横無尽に飛び回っているようで、実は『まちのために』という1つの場所からしか飛んでいないんですよ。そういう場所(ルール)を決めておけば、自分に合う働き方が見つかりやすくなるのではないでしょうか。」

(文:馬島利花)

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  • クライアント受託案件

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