ストーリーズ #021

会社員(人事)×コーチ

大井洋平さん

地域:山形県上山市タイプ:会社員兼オンラインメインの複業

「企業は人なり」というように、会社はひとりひとりの働きの上に成り立つもの。企業の在り方や人の働き方に多様性が求められている今ほど、この言葉が再認識される時代はないかもしれません。とくに歴史ある企業ほど、求められる変化は顕著。レガシーを活かすか、旧態依然にとどまるのか。もしかしたらその変化の鍵を握るのは、パラレルワーカーという存在なのかもしれません。


山形県上山市にある旅館「日本の宿 古窯(こよう)」は昭和26年創業、「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」で毎年上位に入る全国トップクラスの人気旅館です。その古窯を核にさまざまな事業を展開するのが「古窯ホールディングス」。


近年ではブランドを再構築し「今日、この瞬間に、最高の山形を。」を経営理念に、若年層をメインターゲットとしたグランピング施設や地元の素材を使ったプリンの販売など、旅館だけにとどまらない幅広い業態を展開し、山形の魅力を発信しています。


(画像:古窯グループ公式サイト

リブランディングとともに組織の在り方もチェンジ。その人事改革の中心的役割を担っているのが、今回の主人公・大井洋平さんです。人事として古窯ホールディングスに勤める傍ら、1年前に副業をスタート。組織の人づくりをサポートする企業に所属し、本業以外の時間を使いクライアント企業の幹部陣に対しコーチングを行っています。


そもそもコーチングとは何なのでしょうか?
それは、コミュニケーションを通して目標達成や問題解決の道筋を見出す技術のこと。スポーツや育児などさまざまなシーンでも活用されています。「ティーチング=教える」や「コンサルティング=解決策を示す」と異なり「答えは本人が持っている」という考えのもと、対象の主体性を引き出すアプローチが大きな特徴です。

大井さんは、山形の高校を卒業後、パティシエとスープ店店長を経て、古窯に入社しました。とくに20代で入社した企業は「当時から革新的な人事制度を取り入れるなど人にも熱い会社で、理念に共感した」といいます。

もともと自身の成長に常に前向きだった大井さんは、20代の頃から気になるテーマのセミナーや勉強会によく足を運び、常に自身の知識やスキルをアップデートしてきました。コーチングもそのひとつで、本格的に学び始めたのは古窯で人事に配属されてから。そしてそのスキルはすぐに活かされることになります。


「新しい人事評価制度を導入する際に、幹部がコミュニケーションスキルを学ぶはじめの一歩として、コーチングの制度導入を提案しました。自分自身がコーチングを受けたときに感じた『誰かに背中を押してもらう感覚』をまずは体感してもらい、それを足がかりに部下との1on1を実施してもらいました。」

古窯の大きな組織改革で求められたのは「ボトムアップのコミュニケーション」。しかし、誰も具体的なやり方がわからず、そこで大井さんが提案したのがコーチングでした。

「何度か繰り返していくと、自分が話しすぎていた、相手の言葉を待てるようになった、相手が考えているということがわかった、など気付きが起こり、みんなが『とてもよかった』と言ってくれました。コミュニケーション不足が解決するだけで解消する問題は、実は多いんです。」


一方で、新たな制度を導入するとき苦戦しがちなのが「継続すること」。その点はどうしているのでしょうか?

「新たな人事制度はここ2、3年でようやく走り出してきました。回して出てきた問題を一つずつ改善していく。完成はしません。そのサイクルを根気強く続けて、引っ張っていく人がいるかどうかが大事。人は放っておくとやらなくなる生き物ですから、社内ではひたすらこまめに声をかけています。」

次々に生まれてくる改善点を前に、まわりが見えなくなってしまうこともあるはず。しかし、そこにこそパラレルワーカーであることの強みが生かされています。

「副業でクライアントと話すことで外と内のギャップに気付くことができ、常に新しい視点で自社を見ることができるんです。例えば、部下であってもまずはバックボーンをしっかりと聞くことの大事さを再認識したり、組織内で起こりがちなモチベーションの差に気付いたり、他業種の知見が増えて視野が広がるなど、副業を経験値にして自社にフィードバックできることがたくさんあります。」

新鮮な視点は、社内の新陳代謝を促し会社をしなやかに変化させるための欠かせない要素。いわば、パラレルワークはその「最強のスキル」を常に持てる働き方ともいえるでしょう。


大井さんの古窯での次なるビジョンは、部署や事業を超えて幹部・事業長・新入社員などが交流する「ナナメのつながり」をつくること。さらに山形県内で「人事コミュニティ」を立ち上げることも目標です。

このふたつから期待するのは、若い社員が信頼・相談できる存在をつくるセーフティーネットとしての効果。そして、ワクワクする大人との出会いを通じ「視野を広げる」ことを狙います。

「宿泊業界は離職率が高い。そこにはキャリアが見えない、自分の成長を感じにくいという理由があります。だから、若手にはなるべくたくさんの経験をしてもらえるように努めています。例えば接客だけでなく、プレゼンや企画をやってみることで自分の得意不得意を知ることができます。ナナメの関係や人事交流にしても、チャレンジの選択肢を持てるということで、古窯にいる価値が生まれてくる。目指すのは『ここに来たら成長できる』そんなふうに思ってもらえる企業です。」


(若手社員のキャリア形成プログラムにも力を入れている)

さらに大井さんがおすすめするのが「自己分析」。セルフマネジメントにも役立つといいます。

「自分の特性を把握することで、自分の得意なことは生かして、苦手なことはできるだけ人に任せるようにしてます。リフレッシュしにサウナ行くこともありますが、頭がスッキリすると自然と仕事のことを考えちゃうんですよね。」

と笑う大井さん。その生き方はワークアズライフ(仕事とプライベートの両方を充実させて多様な生き方を実現しようという考え)そのものです。

「副業でクライアントとお話しをしてると、元気をもらえるんです。夢に向かって並走できる、一緒に成長できることがなによりのやりがいです。」

仕事をいかに楽しめるか。それがパラレルワーカーとして充実するための条件のひとつといえそうです。

今後も常に新しいものを取り込んでいける環境を作っていきたいという大井さん。最後に、パラレルワーカーを目指す人へのメッセージを伺いました。

とにかくやってみることが大事。一歩踏み出せば、自ずとその先が見えてきます。そして、もうひとつのポイントとしては、人と関わることが良いと思います。反応が見えにくい職業では、モチベーションも上がりません。人と関わることで自然と視野も広がっていきますから。」

(文:高村陽子)

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