ストーリーズ #024

コミュニティスペース運営(団体職員)×映像作家

菊地翼さん

地域:山形県大江町ほかタイプ:団体職員兼個人事業主

山形県大江町・左沢中央商店街にある交流施設「ATERA」は、ゆるやかな音楽が流れる落ち着いた雰囲気のカフェとレンタルスペースを有する町の指定管理施設です。

コーヒーを飲みにやってきた近所のおばあちゃんに「こんにちは、寒くなってきましたね」と穏やかに声をかける青年。2Fで定期開催している英会話教室を終え、階段からパタパタとかけ降りてきた小学生たちにも「気をつけて帰ってね〜!」と気さくに声をかけます。

肩書のない名刺


今日の主人公・菊地翼さんは、32歳のパラレルワーカーです。さまざまな領域の仕事に携わる菊地さんには、2枚の名刺があります。

1枚目は「ATERA事務局長」のもの。フルタイムで施設の運営全般を担い、今年4月には団体の一般社団法人化にも携わりました。経営から接客、チラシ・ポスター作成のほか、地域の団体活動や学校の評議委員といった仕事もこなします。

2枚目の名刺には、名前と連絡先だけが書かれていて、肩書は......ありません。フリーランス・クリエイターとして、企業・行政・学校などをクライアントに、映像や企画などのクリエイティブワークに取り組む際に使っているというこちらの名刺、使い慣れてきたのはごく最近のことだそう。

「ずっと肩書を付けたいと思っているんですが、どれもしっくりこなくて。フリーランス1本だった20代の頃は、よく周囲から『何をやっている人かよくわからない』と言われていました。自分でも自分が何者かよくわかっていなくて、いろいろこなしながらも、あの頃は何かひとつのことに秀でてなければならないという気持ちが常にありましたね。

でも、多様な働き方が世の中で受け入れられていることもあってか、最近は自分のワークスタイルを知った上で仕事依頼してもらえることが増えてきました。」

▲ 映像・音楽のアーティストコーディネートで携わった【山形県 大蔵村 肘折温泉 公式】肘折ラップ
「肘折 HIJIORIONSEN」(2022.10)

フェス運営で養われるもの

東北芸術工科大学で映像を学んだあとラジオ局へ入社し、その後フリーランスとして活動をはじめた菊地さん。ATERAでの仕事を掛け持つようになってから4年になります。

考える、作り出す、とりまとめる、管理する、アドバイスする、など、質の異なる様々な仕事を器用にこなす菊地さんには、もうひとつの重要な側面があります。それは音楽イベントやフェスの運営としての顔です。

フェスの企画・運営はその華やかさの一方で、資金調達や地元や関係者との折衝などパワーを注ぐことが多く、ときには赤字になることも。「利益にはなってないから仕事とはいえない」と菊地さんはいいますが、そんな経験を通して、判断力や体力、そして幅広い人脈が養われていることは間違いありません

▲「岩壁音楽祭」2022年9月に2回目を迎えた岩壁音楽祭。500枚のチケットは完売。
経験ゼロの素人が拓いてきた野外フェスの現在 「岩壁音楽祭」レポート(外部サイトへリンク)

フリーランスとしてやっていくコツは?

どんな仕事であれフリーランスとして一から経験と実績を積み、信頼を得ていくことはそう簡単なことではありません。その点、菊地さんはどんな経緯を辿ってきたのでしょうか?

「20代の頃はフリーランスというよりも、バイトをしながらその日暮らしの感覚でした。自分はプロ意識を持ってやっているつもりでもお手伝い的な仕事が多かったように思います。家賃を払えなくて滞納してしまったこともありますし、仕事が来なくて自分に需要がないんじゃないかって落ち込むこともありました。キツイ時期もあったけど、2〜3年ねばっていたらなんとか食えるようになり、今に至ります。

ATERAの仕事を始めてからは、いい意味でフリーランスの仕事を選べるようになりました。やりたい仕事や収益につながるものメインにシフトチェンジできるようになったのは良かったです。」

菊地さんは、大きな企業で社員として働くよりも、小さな組織で決済権を持ったほうが能力を活かせるタイプがいると言います。自分でやりがいを感じられない仕事はやらない、ある意味わがままであることも、自分がやりたい事を仕事として継続させるコツのひとつなのかもしれません。


映像という仕事の新しい潮流

さらに、時代の流れもパラレルワーカーとしての菊地さんを後押ししました。かつてはテレビ局や制作会社に入るという道がオーソドックスだった映像の世界。近年は山形でも企業や自治体がYoutubeやSNSを積極的に取り入れ、新しい映像の仕事が定着しつつあります

「制作会社に入ったもののハードすぎて3年以内で辞めてゆく先輩たちを見て、映像は諦めたほうがいいと思ったこともありました。でもYoutubeやSNSが出てきて世の中の広告の在り方が変わってきました。テレビの仕事以外でも新しい映像の仕事が出てきて、さらに一眼レフカメラでクオリティの高い動画を撮れるようになり、機材を自分で買える時代になってきた。そういう意味ではラッキーでした。」

コロナ禍以降は映像配信の仕事が増えています。配信には、映像を撮影し持ち帰って編集するのとはまた違う「生放送」ならではのノウハウが必要ですが、菊地さんの場合は、ラジオ局時代の、パーソナリティをやりながら自分で原稿を書いて音楽を流すといった、ワンマン生放送の経験が今に繋がっています。

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時間の制限というデメリットをどう転換していくか

でも、時間に追われクライアントワークをこなしていると、自分が本当にやりたいこと、作りたいものや表現したいことは失われがちになってしまいますよね。その点、菊地さんはどうしているんですか?

「クライアントワークをしていると、これはこうしたい!って思うことが出てくるんです。でもそこでクライアントに文句を言ってもしょうがない。自分のわがままは自分の作品でやればいいですから。でも実際はなかなか時間が取れないのが正直なところです。

パラレルワークは、時間が制限されるデメリットがあります。時間が限られているので仕事もある程度余裕のあるものしか受けられません。でも腰を据えて取り組めるという意味では、自分には合っているかも。最近はアシスタントが加わったことで、アウトプットのクオリティを高められるようになりました。一人でやろうとせず、誰かと一緒につくることの重要性を感じています。

今後は個人の仕事も増やしていきたいです。でも、ただ比率を変えるのではなくて、個人の経験を地域でも発揮することで、もっと仕事の幅を広げていきたいと思っています。」

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多彩な経験を積み、年齢・経験とともにクリエイター・ディレクターとしての土壌を確かなものにする菊地さん。こんな豊かな働き方をする若手が増えていったら、山形はもっと楽しくなるはずです。最後に、パラレルワークを目指す人へ、メッセージを伺いました。

「仕事をいくつか持つことで、クビになってもいいからチャレンジしてみようと思える。そうして好きなことをやってみたらどんどんおもしろくなる。無理をしないで、ゆるくできる仕事をもうひとつ持つことができたら、そんなに辛くならずにいられるんじゃないかなと思います。」

(文:高村陽子)

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