ストーリーズ #006
会社員(営業職)×レコーディングスタジオ業・シンガーソングライター
半田和巳さん
地域:山形県山形市タイプ:会社員兼個人事業主
山形市の住宅地の一角に、隠れ家のようなレコーディングスタジオがあります。「半田技研」です。半田和巳さんによるホームメイドのスタジオは、アーティストとの垣根がない、フラットな12畳の空間。ミュージシャンやナレーターの録音をはじめ、ミックス・マスタリング・ドキュメンタリー映画の整音等も手掛けています。
「仕事として受け始めたのはここ3年くらい(2021年2月当時)なんですが、趣味レベルで高校生の頃からやっていました。昔から、機材マニアなんですよ。音楽をやっているので曲も作るのですが、どうしても機材が好きなんですよね。」
「テレビでマイクがいっぱい並んでいるシーンが出てくると、ピシッと一時停止して、『ははー』って見ちゃうんです。ピアノのマイクの置き方や、何のマイクを使っているかとか。」
高校時代も含めると、これまでに制作・ミックスした曲はおよそ1,000曲。山形県内、県外のミュージシャン等から信頼を置かれている半田さんですが、これまでにレコーディング会社などで修行したことは無いそうです。
「マニアックな雑誌を読んだり、調べたり、ひたすら独学です。完全なオタクですよね(笑)。でも、これが自分の強みかなと思っています。本業としてやっているのであれば、コスパを優先すると思うんです。バンドのレコーディングなら既にセットを組んでいて、ある程度完成形が見えている状態で行うように。」
「僕の場合は、完全に“好き”で個人事業としてやっていますので、効率を目指すよりもアーティストそれぞれと話をして、個性を引き出す音楽づくりをしようと心がけています。」
まさに趣味が高じて、レコーディングスタジオ&シンガーソングライター「半田技研」として楽曲を制作している半田さんですが、本業は山形市にある総合制作プロダクション「株式会社デジコンキューブ」の営業職です。Webサイト制作、映像・ライブ配信、紙媒体制作のヒアリングやディレクションを担当しています。
「自分で羽ばたくと、また新たなことができると思います。ただ、会社員であるからこその出会いもあるんですよ。」
「半田技研」のMV制作をデジコンキューブがサポートしたり、半田さん経由でデジコンキューブにプロジェクトが舞い込んだり。お互いの人脈やスキルが化学反応を起こすこともあります。
半田さんファミリーが作詞作曲と唄、デジコンキューブがアニメーションを手掛けた『やまがた伝統野菜音頭』
他にも、新たな人との繋がりが生まれるハブになっている場が、半田さんが中心メンバーの一人となっているDIYフェス「CBJAM」です。
「山形にUターンしてきたとき、昔の友達と集まって芋煮会をしていたんですよ、オールナイトで。それが面白くてフェスを始めたんです。そしたらいろんな変わった人が集まってきて、『こういうのでも良いんだな』『好きにやって良いんだな』と思いましたね。それが仕事にも生きているのかな。無茶ぶりのような依頼がきても、すぐに『あいつとあいつに連絡して、このチームでやるか』と動けるようになっていって、デジコンキューブでもやっとそれが出来るようになってきたと感じます。」
2016年のフェスの様子
CBJAMは令和元年で16周年を迎えました。本業を持ちながらフェスを16年続け、個人事業主として仕事も受けるバイタリティに驚きます。
「ただ、半田技研は好きでやっているのですが、どの仕事も受けてしまうと本当に気持ちがきつくなってきてしまって…。自分が本当に面白いな、参加したいなと思ったプロジェクトか、あるいはギャラが良い仕事(笑)でないと受けない方が良いことに気づきました。」
「フェスも同じで、無理しないようにしています。イベントの規模拡大を図るばかりに、お金や運営の面で自分たちの首を絞めてしまうことはよくあります。そんなにお金をかけなくても良いから、自分たちが本当に遊べる祭りをしたい。そうして自然に、人と人が勝手に繋がっていけば、あとは自由に。なので、リーダーもいないし、ターゲットもコンセプトも考えていません。それこそ、芋煮会の延長みたいな感じですよね。」
「全然気合入ってないんですよ」と笑う半田さんは、自然体で音楽や場づくりを楽しんでいるように感じました。ありとあらゆる興味に導かれて一歩を踏み出してきたこれまで、そして今の働き方について、ご自身ではどう思われているのでしょうか。
「子どもの頃から本当にいろいろなことに手を付けてきました。最初はMSX(1980年代に提唱され、多機種が発売されたPCの共通規格)に始まり、高校ではアマチュア無線部で。そのあと三味線をはじめたり、ストリートミュージシャンとしてバイクで全国行脚したり、先輩のお手伝いで学校からLAN回線ひいてネットワーク作ったら怒られたり(笑)。あ、自主制作映画の監督も何本かやっています。」
「いろいろやってきましたが、逆に言えば、何かひとつで食っていきたいみたいなことがないわけですよね。今もそんな感じで、正直モヤモヤはしているんです。でも、仕事でも半田技研でも、色んな人と出会い、お互いにセッションしてひたすらアウトプットをしていく。そういうところに働く幸せを感じています。」
(文:色摩ゆかり)
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